任意後見契約とは?
認知症になる前に準備しておきたい仕組み・手続き・費用をわかりやすく解説
「将来、認知症になったら、 自分のお金や生活のことは誰が管理してくれるのだろう」
「子どもがいないので、 判断能力が低下した後のことが心配」
「元気なうちに、 信頼できる人へ将来のことを頼んでおきたい」
このような場合に検討したい制度の一つが、 任意後見制度です。
任意後見は、 認知症になってから相手を探す制度ではありません。
本人の判断能力が十分なうちに、 将来誰に何を任せるのかを 自分自身で決めておく制度 です。
本人の判断能力が十分なうちに、 将来、認知症などによって判断能力が不十分になった場合に備え、 自分が選んだ人に、 財産管理や生活・療養等に必要な法律行為を 代理してもらうための契約 です。
重要なポイントは、
① 元気なうちに契約する
② 公正証書で契約する
③ 誰に任せるか本人が決める
④ 何を任せるか本人が決める
⑤ 契約しただけでは任意後見は始まらない
⑥ 家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると効力が生じる
という点です。
任意後見制度とは?
成年後見制度には、 大きく分けて 「法定後見制度」と「任意後見制度」 があります。
任意後見制度は、 本人に十分な判断能力があるうちに、 将来判断能力が不十分になった場合に備えて利用する制度です。
- 誰に任せるのか
- どのような財産管理を任せるのか
- どのような契約手続きを任せるのか
- 生活・療養に関してどのような法律行為を任せるのか
法定後見と任意後見は何が違う?
両者の大きな違いは、 本人が元気なうちに自分で準備するかどうか です。
| 比較 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|
| 準備する時期 | 本人の判断能力が十分なうち | すでに判断能力が不十分となった後 |
| 後見人 | 本人が将来任せたい人を選んで契約する | 家庭裁判所が成年後見人等を選任する |
| 権限 | 本人が契約で定めた代理権の範囲 | 法律と家庭裁判所の審判等に基づく |
| 契約方法 | 公正証書による任意後見契約 | 本人等から家庭裁判所への申立て |
| 監督 | 家庭裁判所が選任した任意後見監督人が監督 | 家庭裁判所が監督し、必要に応じ成年後見監督人等が選任される場合がある |
| 取消権 | 任意後見人に一般的な取消権はない | 成年後見人には法律上一定の取消権がある |
任意後見契約は誰と結ぶ?
本人が将来任意後見人になってほしい人を選び、 その人との間で任意後見契約を締結します。
契約締結時点では、 その人を 「任意後見受任者」 といいます。
任意後見監督人が家庭裁判所によって選任され、 任意後見契約の効力が生じた後に 「任意後見人」となります。
誰を任意後見受任者にできる?
本人が信頼できる人を選ぶことが基本です。
- 子ども
- 兄弟姉妹
- 甥・姪などの親族
- 信頼できる知人
- 専門職等
- 一定の法人
ただし、 法律上、任意後見人になることができない場合もあります。
また、 財産額や家族関係、 本人との関係性、 長期間継続して業務を行えるかなどを考えて 選ぶことが重要です。
任意後見人には何を頼める?
任意後見人ができることは、 任意後見契約で定めた代理権の範囲 によって決まります。
預貯金等の管理
契約で与えられた代理権に基づき、 本人の生活に必要な財産管理等を行います。
生活費等の支払い
家賃、施設費、公共料金など、 本人の生活に必要な支払いに関する事務を行います。
介護サービス関係
必要な介護サービス契約等に関する法律行為を行います。
高齢者住宅・施設
契約で定めた範囲で、 施設入居等に必要な契約手続きを行います。
医療・療養関係の契約
医療・療養に伴う契約や費用の支払い等について、 代理権の範囲内で対応します。
住居に関する事務
本人の生活に必要な住居関係の契約等について、 契約で定めた範囲で対応します。
任意後見人なら何でもできるわけではない
任意後見人は、 本人の生活を支える重要な役割を担いますが、 何でも本人に代わって決められるわけではありません。
・任意後見契約で与えられていない代理権は当然には行使できない
・本人に代わって遺言を作成することはできない
・結婚、離婚、養子縁組など本人自身の意思が重視される行為を当然に代理できるわけではない
・本人に代わる包括的な医療同意権が当然に生じるわけではない
・任意後見人には一般的な取消権がない
・本人の死亡後は任意後見人としての権限は原則終了する
任意後見契約は公正証書で作成する
任意後見契約は、 本人と任意後見受任者が 単に契約書へ署名・押印するだけでは成立しません。
公証人が作成する公正証書によって 任意後見契約を締結する必要があります。
契約内容を事前に整理したうえで、 公証役場で公正証書を作成します。
任意後見契約をすると登記される
任意後見契約の公正証書が作成されると、 任意後見契約に関する情報は 後見登記等ファイルに登記されます。
公証人から登記の嘱託が行われるため、 通常、本人が契約締結後に自分で法務局へ 任意後見契約の登記申請をするものではありません。
契約したらすぐ任意後見が始まる?
いいえ。
ここが任意後見制度で 最も重要なポイントの一つです。
その後、 認知症などにより本人の判断能力が不十分な状況となったときに、 家庭裁判所へ 任意後見監督人の選任 を申し立てます。
家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると、 任意後見契約の効力が生じます。
任意後見受任者を決める
将来どのような事務を任せるかを整理
公証役場で任意後見契約を締結
必要に応じて見守り契約等を利用
任意後見監督人の選任を求める
任意後見人による支援が始まる
任意後見監督人とは?
任意後見制度では、 任意後見人が単独で自由に業務を行う仕組みではありません。
家庭裁判所が 任意後見監督人 を選任します。
- 任意後見人の事務を確認する
- 必要な報告を求める
- 財産状況等を確認する
- 任意後見人の事務について家庭裁判所へ報告する
任意後見監督人は誰が決める?
任意後見監督人は、 本人や任意後見受任者が自由に決定するものではありません。
家庭裁判所が選任します。
事案に応じて、 弁護士・司法書士等の専門職が 選任されることがあります。
任意後見契約の費用は?
任意後見では、 大きく分けて 「契約を作成するときの費用」と 「任意後見が始まった後の費用」 があります。
任意後見契約を公正証書にするため、 公証役場で所定の手数料等が必要です。
代表的には、 公正証書作成の基本的な手数料のほか、 登記嘱託手数料、 法務局に納める登記関係の費用、 正本・謄本等の交付費用などがかかります。
行政書士等へ 契約内容の整理や公正証書作成の準備を依頼する場合には、 別途専門家報酬が必要となります。
報酬は、 契約内容、財産状況、 見守り・財産管理等委任・死後事務等を 一緒に作成するかによって異なります。
任意後見人への報酬については、 任意後見契約の内容に応じて定めます。
親族へ依頼する場合と 専門職等へ依頼する場合でも、 契約内容は異なります。
任意後見開始後は、 家庭裁判所が選任した任意後見監督人に対する報酬が 発生する場合があります。
任意後見監督人の報酬額は、 家庭裁判所が事案に応じて決定します。
任意後見開始後には、 契約内容に応じた任意後見人への報酬や、 家庭裁判所が定める任意後見監督人の報酬等が 必要になることがあります。
そのため、 契約前に将来の継続的な費用も含めて 考えておくことが大切です。
任意後見契約を作った後、何もしなくてよい?
任意後見契約を作成した時点では本人が元気です。
実際に任意後見が必要になるのは、 5年後かもしれませんし、 10年以上先かもしれません。
そこで問題になるのが、 「本人の判断能力が低下したことに誰が気付くのか」 という点です。
そこで重要になるのが「見守り契約」
↓
定期電話・定期訪問による見守り
↓
本人の生活・判断能力等の変化を確認
↓
判断能力の低下が疑われる
↓
必要に応じて 任意後見監督人選任の申立てを検討
↓
任意後見開始
特に、 一人暮らしや身寄りがない方の場合には、 任意後見契約だけを作成するのではなく、 契約後の見守りをどうするか まで考えることが重要です。
元気な間の財産管理はどうする?
任意後見契約を締結していても、 任意後見監督人が選任されるまでは、 任意後見人としての権限は開始していません。
しかし、 本人の判断能力は十分でも、 高齢や病気によって 銀行や役所へ行くことが難しくなる場合があります。
そのような場合には、 必要に応じて 財産管理等委任契約 を別途検討することがあります。
見守り
本人の生活状況等を 継続的に確認します。
財産管理等委任
本人に判断能力がある段階で、 契約で定めた事務等を委任します。
任意後見
判断能力が不十分となり、 任意後見監督人選任後に開始します。
本人が亡くなったら任意後見はどうなる?
本人が死亡すると、 任意後見人としての権限は原則として終了します。
しかし、 死亡後には様々な事務が残ります。
- 関係者への死亡連絡
- 葬儀・火葬に関する手配
- 納骨に関する手続き
- 高齢者施設の退去に伴う事務
- 住居の明渡しに伴う事務
- 公共料金等の契約終了に伴う手続き
- 携帯電話等の契約終了に伴う手続き
こうした死亡後の事務については、 死後事務委任契約 を別途検討します。
任意後見と遺言も役割が違う
任意後見契約
本人の生前、 判断能力が不十分となった後の 財産管理・法律行為等を支援します。
遺言
本人が亡くなった後、 財産を誰にどのように承継させるか等について 本人の意思を残します。
遺言を希望する場合には、 本人が遺言能力を有しているうちに 準備することが重要です。
任意後見と身元保証は同じ?
これも同じではありません。
高齢者施設や病院等で求められる 身元保証・身元引受・緊急連絡等と、 任意後見人の法律上・契約上の役割は 分けて考える必要があります。
施設・病院等が何を求めているのかを確認し、 必要な役割を整理することが重要です。
医療同意についても注意
そのため、 本人の判断能力が十分なうちに、 将来の医療・療養について どのような希望を持っているのかを整理し、 必要に応じて家族・支援者・医療関係者等と 共有しておくことも大切です。
任意後見契約はいつ準備する?
任意後見契約は、 本人の判断能力が十分なうちに締結する必要があります。
そのため、 「認知症になってから考えればよい」 では遅い場合があります。
- 一人暮らしを始めた
- 配偶者に先立たれた
- 子どもがいない
- 親族が遠方に住んでいる
- 兄弟姉妹も高齢になってきた
- 将来の認知症が気になり始めた
- 高齢者住宅への入居を考え始めた
- 自分の財産を将来誰に管理してもらうか決めたい
サ高住管理者として8年間、現場に携わってきました
私は、 サービス付き高齢者向け住宅の管理者として8年間、 実際の高齢者住宅の現場に携わってきました。
高齢者の判断能力は、 ある日突然すべて失われるとは限りません。
- 同じ話を繰り返すことが増えた
- 予定を忘れることが増えた
- お金の管理に不安が出てきた
- 公共料金等の支払いが難しくなってきた
- 介護サービスが必要になってきた
- 施設・医療関係者との連絡が増えてきた
だからこそ、 本人が自分自身で判断できる時期に、 「誰に頼むのか」 「何を頼むのか」 「どのような生活を送りたいのか」 を整理しておくことが大切です。
現在は、 この現場経験を活かして 高齢者住宅の紹介事業にも携わっています。
老後の備えは任意後見だけで終わらない
見守り・遺言・任意後見契約等を準備
必要に応じて財産管理等委任
必要に応じて身元保証・緊急連絡等を検討
任意後見監督人選任の申立てを検討
契約で定めた代理権に基づく支援
任意後見人としての権限は原則終了
死後事務委任・遺言・相続
任意後見契約を準備する流れ
家族関係、住居、健康状態、財産等を確認します。
自宅で暮らしたいのか、高齢者住宅を希望するのか、財産をどのように管理してほしいのか等を考えます。
将来、誰に任意後見人になってもらいたいのかを検討します。
財産管理、介護、住居、療養等について、何を代理してもらうのか整理します。
見守り、財産管理等委任、死後事務委任等が必要か検討します。
任意後見契約公正証書の内容を確認します。
公証役場で任意後見契約を締結します。
本人の生活状況・判断能力等の変化を確認します。
必要に応じて家庭裁判所への任意後見監督人選任申立てを検討します。
任意後見監督人選任後、契約で定めた代理権に基づく支援が始まります。
任意後見契約を検討したい人
- 一人暮らしをしている
- 子どもがいない
- 頼れる親族が近くにいない
- 親族と疎遠になっている
- 将来の認知症が心配
- 自分で任意後見人を選んでおきたい
- 財産管理を将来誰に頼むか決めたい
- 高齢者施設への入居を考えている
- 家族にできるだけ負担をかけたくない
- 死亡後のことまで含めて準備したい
行政書士に相談できること
行政書士には、 本人の希望・財産・家族関係・生活状況等を整理しながら、 任意後見契約に関する書類や 老後・終活に関する契約について相談することができます。
- 本人の希望事項の整理
- 任意後見契約の内容・代理権の整理
- 任意後見契約公正証書作成の準備支援
- 公証役場との事前調整に関する支援
- 見守り契約書の作成
- 財産管理等委任契約書の作成
- 死後事務委任契約書の作成
- 遺言書の作成支援
- 高齢者住宅入居に伴う書類の整理
- 相続・終活に関する書類作成
具体的な紛争についての代理交渉・訴訟等は弁護士、 不動産登記の申請代理は司法書士、 個別具体的な税務相談・税務申告は税理士の専門分野です。
また、 家庭裁判所における任意後見監督人選任手続については、 個別の状況に応じて弁護士・司法書士等への相談が必要となる場合があります。
契約前のチェックリスト
- 誰を任意後見受任者にするか決めた
- 任意後見人に何を任せるか整理した
- 預貯金・不動産等の財産を整理した
- 将来どこで暮らしたいか考えた
- 介護・療養について希望を整理した
- 契約後の見守り方法を考えた
- 元気な間の財産管理が必要か検討した
- 施設入居時の身元保証等について検討した
- 死亡後の事務を誰に頼むか考えた
- 遺言が必要か検討した
- 任意後見開始後の継続的な費用も確認した
まとめ
① 任意後見契約は、本人の判断能力が十分なうちに将来の認知症等へ備えるための契約です。
② 誰に任せるか、どのような代理権を与えるかを本人自身が決めることができます。
③ 任意後見契約は公正証書で締結する必要があります。
④ 契約を締結しただけでは任意後見は開始しません。
⑤ 本人の判断能力が不十分となり、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると任意後見契約の効力が生じます。
⑥ 任意後見人ができることは、契約で与えられた代理権の範囲によります。
⑦ 任意後見人には一般的な取消権や、本人に代わる包括的な医療同意権が当然に与えられるわけではありません。
⑧ 契約後から任意後見開始までの期間については、見守り契約等を組み合わせることが考えられます。
⑨ 本人の死亡後は任意後見人としての権限が原則終了するため、必要に応じて死後事務委任や遺言も準備します。
⑩ 任意後見は「認知症になってから」ではなく、自分で判断できる元気なうちに検討することが重要です。
↓
自分で任意後見受任者を選ぶ
↓
自分で任せる内容を決める
↓
公正証書で任意後見契約を締結
↓
見守り等を続ける
↓
判断能力が不十分になる
↓
家庭裁判所が任意後見監督人を選任
↓
任意後見開始
「誰に」「何を」「どのように頼みたいのか」を 本人自身で決められることが、 任意後見制度の大きな特徴です。
老後の備えについてお気軽にご相談ください
「元気なうちに任意後見人を決めておきたい」
「一人暮らしなので契約後の見守りも頼みたい」
「子どもがおらず施設入居や入院も心配」
「財産管理・死後事務・遺言までまとめて準備したい」
といった段階からご相談いただけます。
高齢者住宅の紹介から、見守り・身元保証・財産管理等委任・任意後見・
死後事務・遺言・相続まで、状況に応じて整理いたします。