賃貸借契約の「敷金・保証金」とは?
返還・償却・差引きでトラブルにならないためのポイント

賃貸借契約では、 契約時に 「敷金」や 「保証金」 を預けることがあります。

特に店舗・事務所などの事業用賃貸借では、 保証金が高額になることもあり、 契約終了時に 「いくら返すのか」「何を差し引けるのか」「償却はどうするのか」 が問題になりやすいところです。

トラブルを防ぐためには、 契約締結時に 返還時期・差引項目・償却・原状回復との関係を 明確にしておくことが重要です。

敷金・保証金で確認したい4つのポイント
① いくら預けるのか

② 契約終了時にいくら返還するのか

③ 未払賃料や原状回復費を差し引けるのか

④ 償却・敷引きの定めがあるのか

「敷金」とは?

敷金とは、 賃貸借契約に基づいて借主が貸主に預ける金銭で、 一般に 賃料その他の債務を担保するためのもの です。

契約終了後、 物件を明け渡した時点で、 未払賃料や借主が負担すべき費用等があれば それらを差し引き、 残額を返還するという性質を持ちます。

敷金は、原則として「預り金」です。

契約時に受け取った時点で 当然に貸主の収入になるものではありません。

「保証金」とは?

店舗・事務所などの事業用賃貸借では、 「敷金」ではなく 「保証金」 という名称が使われることが多くあります。

保証金には、 未払賃料、 原状回復費用、 その他契約上の債務を担保する目的が含まれていることが一般的です。

ただし、 「敷金」「保証金」という名称だけで法的な扱いが決まるわけではありません。

実際には、 契約書にどのような返還・償却・差引きの定めがあるかが重要です。

敷金と保証金の違い

項目 敷金 保証金
よく使われる場面 住宅・事業用の双方 店舗・事務所など事業用で多い
主な目的 賃料等の債務を担保 賃料・原状回復費等の担保
返還 債務等を差し引いて返還 契約内容に基づいて返還
償却 契約に定める場合あり 事業用では償却条項が設けられることがある

契約終了時に敷金・保証金はいつ返す?

敷金については、 契約が終了しただけで直ちに返還となるとは限らず、 一般に 借主が物件を明け渡した後 に精算します。

これは、 明渡し後でなければ 未払賃料、 原状回復費用、 残置物処分費用等を 確定できないことがあるためです。

契約書では、

「明渡し後○日以内」

など、 返還時期を具体的に決めておくと トラブル防止につながります。

敷金・保証金から何を差し引ける?

貸主が敷金・保証金から差し引けるものは、 基本的に 借主が負担すべき債務 です。

例えば、
  • 未払賃料
  • 未払共益費
  • 未払管理費
  • 契約に基づき借主が負担する原状回復費
  • 残置物処分費
  • その他契約上借主が負担すべき債務
などが考えられます。

「何でも差し引ける」わけではありません

貸主が一方的に 何でも敷金・保証金から差し引けるわけではありません。

差引きの根拠となる契約条項や、 実際の借主負担額を確認する必要があります。

特に原状回復費用については、 どこまで借主負担とするのかを 契約書で明確にしておくことが重要です。

原状回復費用との関係

退去時に最もトラブルになりやすいのが、 原状回復費用と保証金の精算 です。

例えば
保証金 3,000,000円
未払賃料 200,000円
借主負担の原状回復費 800,000円


であれば、

3,000,000円 - 200,000円 - 800,000円 = 2,000,000円

を返還するという精算方法が考えられます。

ただし、 実際に何を控除できるかは 契約内容と具体的な負担関係によって判断します。

事業用物件では原状回復条項が特に重要

店舗・事務所では、 借主が内装、 空調、 配管、 看板、 什器等を設置することがあります。

そのため、 退去時に どこまで撤去するのかを 契約締結時から明確にしておく必要があります。

例えば、
  • 借主が設置した間仕切り
  • 借主が設置した空調設備
  • 借主が施工した配管
  • 看板・サイン
  • 造作物
  • 什器・設備
について、 撤去するのか、貸主承諾により残置できるのか を定めます。

「償却」とは?

保証金契約では、 契約終了時に 保証金の一部を返還せず、 一定額または一定割合を貸主が取得する という「償却」条項を設けることがあります。

例えば
保証金 3,000,000円
契約終了時10%償却


と定めた場合、

300,000円を償却

し、 その他の未払債務等を控除した残額を返還する、 という仕組みが考えられます。

「償却」と「原状回復費」は同じ?

ここは契約書で非常に重要な部分です。

償却金に原状回復費を含むのか、 償却とは別に原状回復費を請求できるのかを 曖昧にしてはいけません。

例えば、 「保証金10%償却」とだけ書いてある場合、 後から 「この10%は原状回復費を含むのか」 が争いになる可能性があります。

契約書では償却の意味を明確に

契約書には、

・償却率または償却額
・償却する時期
・消費税の扱い
・原状回復費との関係
・未払賃料等の控除との関係


を明確にしておくことが重要です。

事業用保証金の償却と消費税

事業用賃貸借で保証金の一部を 返還しないことが確定する場合には、 その金銭の性質によって 消費税の取扱いを検討する必要があります。

「保証金だからすべて非課税」 と単純に考えないことが重要です。

返還されないことが確定する償却部分については、 契約内容・取引の性質に応じて税務上の確認が必要です。 具体的な税務判断については税理士等へ確認してください。

保証金の「敷引き」とは?

地域や契約内容によっては、 敷金・保証金から あらかじめ一定額を差し引いて返還する 「敷引き」 という表現を用いることがあります。

実質的には償却に近い内容となることがありますが、 どのような性質の金銭かは 契約内容を確認する必要があります。

中途解約時の保証金はどうなる?

借主が契約期間途中で解約する場合にも、 保証金の返還条件を確認します。

特に、
  • 中途解約でも償却するのか
  • 契約満了時と中途解約時で償却率が同じか
  • 違約金を保証金から差し引けるか
  • 未払賃料を控除できるか
  • 原状回復費を控除するか
などを契約書で整理します。

違約金と保証金の関係

事業用賃貸借契約では、 中途解約について 「6か月前予告」 や 「予告期間に代えて一定額を支払う」 といった条項を設ける場合があります。

その場合、 未払違約金等について 保証金から控除できるようにするのであれば、 契約書上の根拠を明確にしておくことが重要です。

保証金の返還時期を必ず書く

返還時期が曖昧だと、 退去後に 「いつ返してもらえるのか」 という問題になります。

例えば、

「乙が本物件を完全に明け渡した後、 甲は未払債務等を控除し、 残額を○日以内に返還する」

など、 具体的に定めておくことが考えられます。

返還先口座も確認

法人テナントの場合には、 契約締結時と退去時で 担当者や銀行口座が変わっていることがあります。

返還前には、 契約当事者本人の正しい返還先口座 を確認しておくことも重要です。

契約書に書いておきたい保証金条項

  • 保証金の金額
  • 預入時期
  • 保証金の目的
  • 無利息とするか
  • 返還時期
  • 控除できる債務
  • 原状回復費用との関係
  • 償却率・償却額
  • 償却時の消費税の扱い
  • 中途解約時の取扱い
  • 契約解除時の取扱い
  • 再契約時の取扱い
  • 保証金不足時の追加請求

保証金条項の一例

考え方の例
契約終了
↓
借主が物件を明渡し
↓
未払賃料等を確認
↓
原状回復費等を確認
↓
契約上の償却額を処理
↓
残額を返還

この流れが契約書から読み取れるようにしておくと、 貸主・借主双方にとって分かりやすくなります。

保証金が不足したら?

未払賃料や原状回復費が 保証金の額を超えることもあります。

保証金の範囲内でしか請求できないわけではありません。

借主が負担すべき債務が保証金を超える場合には、 契約内容等に基づき不足額の請求を検討することになります。

契約途中で保証金から賃料を払える?

借主から 「保証金を預けているので、 今月の賃料は保証金から差し引いてほしい」 と言われることがあります。

借主が当然に保証金を賃料へ充当できるとは限りません。

保証金は債務の担保として預けられているものであり、 契約期間中の充当については 契約条項を確認する必要があります。

貸主が変わった場合の保証金

賃貸中の物件が売却され、 貸主が変更になることもあります。

この場合、 敷金・保証金の返還義務が どのように承継されるのかについては、 賃貸借の対抗関係や契約内容等も含めた確認が必要です。

物件売買時には、 賃貸借契約と保証金残高を 正確に引き継ぐことが重要です。

再契約時の保証金も確認

定期建物賃貸借契約が満了し、 新たに再契約をする場合には、 既存の保証金をそのまま新契約に引き継ぐのか、 一度精算するのかを決めておく必要があります。

再契約では、
  • 旧契約保証金を新契約へ承継するか
  • 保証金額を増額・減額するか
  • 旧契約時点で償却するか
  • 再契約終了時にまとめて償却するか
  • 再契約料との関係
を確認します。

事業用賃貸借では「契約書が重要」

住宅賃貸借と比べ、 店舗・事務所の賃貸借では、 保証金・原状回復・設備・内装・中途解約など 個別の契約条件が大きく異なります。

事業用契約では
保証金 + 償却 + 原状回復 + 中途解約 + 違約金 + 再契約

を別々に考えるのではなく、 相互に矛盾しないように 契約書全体を整理することが重要です。

よくあるトラブル

① 償却の意味が不明確

原状回復費を含むのか別途請求なのかで争いになります。

② 返還時期が書いていない

退去後いつ返還するかでトラブルになります。

③ 原状回復範囲が曖昧

どの設備・造作を撤去するかで意見が分かれます。

④ 中途解約時の精算が不明確

違約金・償却・未払賃料との関係が問題になります。

契約締結前チェックリスト

  • 敷金・保証金の金額は明確か
  • 返還条件は明確か
  • 返還時期を定めているか
  • 償却の有無を定めているか
  • 償却率・金額を明記しているか
  • 原状回復費との関係が明確か
  • 未払賃料等を控除できるか
  • 中途解約時の取扱いを定めているか
  • 違約金との関係が明確か
  • 再契約時の保証金をどうするか決めているか
  • 保証金不足時の扱いを確認したか

行政書士に相談できること

敷金・保証金のトラブルを防ぐためには、 契約締結時に条件を文章として 明確にしておくことが重要です。

行政書士は業務範囲に応じて、
  • 賃貸借契約書の作成
  • 保証金条項の作成・整理
  • 償却条項の作成
  • 原状回復条項との整合確認
  • 中途解約条項との整合確認
  • 再契約時の契約書作成
  • 契約条項の不足・矛盾の確認
などを行うことができます。
すでに貸主・借主間で具体的な紛争が発生しており、 相手方との交渉・代理・訴訟対応が必要な場合には、 弁護士への相談が必要となることがあります。

税務上の判断が必要な場合には、 税理士等へ確認することが重要です。

まとめ

① 敷金・保証金は、賃料その他の債務を担保するために預ける金銭です。

② 名称だけでなく、契約書にどのような内容が定められているかが重要です。

③ 契約終了後、借主が負担すべき未払賃料・原状回復費等を控除し、残額を返還するのが基本です。

④ 償却を設ける場合は、率・金額・時期・原状回復費との関係を明確にします。

⑤ 返還時期を契約書に具体的に定めておくことが重要です。

⑥ 事業用賃貸借では、保証金・原状回復・中途解約・違約金を一体として整理する必要があります。

⑦ 定期建物賃貸借の再契約時には、保証金を引き継ぐか精算するかも確認します。

保証金トラブルを防ぐポイント
保証金額
↓
返還条件
↓
控除項目
↓
償却
↓
原状回復
↓
中途解約・違約金
↓
返還時期


これらを契約締結時に明確にしておくことが、 退去時のトラブル防止につながります。
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