事業用賃貸借契約で重要な「修繕義務」とは?
貸主・借主の負担区分をわかりやすく解説
店舗・事務所などの事業用賃貸借では、 建物や設備が故障したときに、 「貸主と借主のどちらが修理費を負担するのか」 が問題になることがあります。
エアコン、給排水設備、電気設備、トイレ、シャッター、照明、 配管など、事業用物件にはさまざまな設備があります。
契約書の修繕条項が曖昧なままだと、 故障が発生した際に 「建物設備だから貸主負担」 「借主が使用しているから借主負担」 と双方の意見が食い違うことがあります。
② 故障原因は何か
③ 通常の修繕か、大規模修繕か
④ 契約書では誰の負担と定めているか
⑤ 借主が勝手に修繕してよいのか
民法上、修繕は誰が行う?
民法上の基本的な考え方として、 賃貸人には、 賃貸物を使用・収益するために必要な修繕を行う義務があります。
つまり、 建物を通常の目的で使用するために必要な修繕は、 原則として貸主側の問題となります。
事業用賃貸借では契約条項が特に重要
店舗・事務所などの事業用賃貸借では、 住宅賃貸借以上に、 貸主と借主の修繕負担を契約書で具体的に定めていることがあります。
どの設備について、 どの範囲まで、 誰が費用負担するのかを 具体的に定めることが重要です。
まず「貸主設備」と「借主設備」を分ける
事業用物件の修繕を考える場合、 最初に整理したいのが その設備を誰が設置したのか という点です。
貸主が設置した設備
建物に従前から設置されている空調、 給排水設備、トイレ、電気設備等です。
修繕について貸主負担とするケースがありますが、 契約内容を確認します。
借主が設置した設備
借主が店舗営業等のために設置した 空調、厨房設備、配管、看板、照明、造作等です。
通常は借主側で維持管理・修繕する旨を 定めることがあります。
貸主負担とすることが考えられる修繕
契約内容によりますが、 建物本体や貸主所有設備については、 貸主側の修繕として整理することがあります。
- 建物躯体の不具合
- 屋根・外壁からの雨漏り
- 貸主設置の主要給排水設備
- 貸主設置の電気設備
- 共用部分の設備
- 貸主所有の設備の経年劣化による故障
事業用賃貸借では、 契約上、借主側に維持管理・修繕負担を定めている場合があります。
借主負担とすることが考えられる修繕
- 借主が設置した設備の修繕
- 借主施工の内装・造作の修繕
- 借主設置の看板・サイン
- 借主設置の厨房設備
- 借主設置の空調設備
- 借主の故意・過失による破損
- 通常の使用方法を超えた使用による破損
- 消耗品等の交換
設備ごとに負担区分を決める
| 設備・箇所 | 確認したいポイント |
|---|---|
| 建物躯体 | 柱・梁・屋根・外壁など。大規模修繕との関係も確認。 |
| 空調設備 | 貸主設置か借主設置か。室外機・配管も含めて確認。 |
| 給排水設備 | 建物本体設備か、借主増設配管かを区分。 |
| 電気設備 | 幹線・分電盤・借主増設配線等を分けて確認。 |
| トイレ | 便器本体、給排水、消耗部品等の負担区分を確認。 |
| シャッター・扉 | 設備所有者、故障原因、経年劣化か使用上の破損かを確認。 |
| 看板 | 借主設置であれば維持・修繕・撤去まで借主負担とすることが多い。 |
| 内装・造作 | 借主施工部分か、貸主従前設備かを確認。 |
空調設備は特にトラブルになりやすい
事業用物件では、 空調設備の修理・交換費用が高額になる場合があります。
そのため、 契約締結時に 「誰が設置した空調なのか」 を確認することが重要です。
↓
借主設置の空調か
↓
修理費は誰が負担するか
↓
交換が必要な場合は誰が負担するか
↓
退去時に撤去するか
「設備」と「残置物」を区別する
入居時に物件内にエアコンや什器などが残っていても、 それが当然に 貸主の設備 とは限りません。
前の借主が置いていった 「残置物」 として引き渡されている場合があります。
設備表や契約書で、 「貸主設備」なのか「残置物」なのかを 明確にしておくことが重要です。
借主の故意・過失で壊した場合
借主やその従業員等の故意・過失によって 建物や設備を壊した場合には、 通常の経年劣化とは扱いが異なります。
例えば、 搬入作業で壁を破損した場合、 誤った設備使用により故障させた場合などです。
経年劣化の場合は?
設備を通常どおり使用していても、 年数の経過によって故障することがあります。
貸主所有設備について、 経年劣化による故障が発生した場合には、 契約上の修繕負担条項を確認します。
設備の所有者、 設置者、 故障原因、 契約条項を総合的に確認することが重要です。
小修繕は借主負担とする契約もある
事業用賃貸借契約では、 軽微な修繕や日常的な維持管理について 借主負担とする条項を設けることがあります。
- 電球・蛍光灯等の交換
- 水栓パッキン等の消耗品
- 鍵・錠前の軽微な修理
- 日常清掃
- 借主専用部分の簡易な維持管理
金額で修繕負担を分ける方法
契約によっては、 一定金額以下の軽微な修繕を借主負担とし、 高額な修繕を貸主負担とする方法も考えられます。
「1件○万円以下の軽微な修繕は借主負担」
などです。
ただし、 金額だけでなく 故障原因や設備の所有関係との整合も確認する必要があります。
修繕が必要になったら借主は貸主へ通知
借主が建物や設備の不具合を発見した場合には、 貸主または管理者へ 速やかに連絡することが重要です。
- 不具合が発生した日時
- 故障箇所
- 現在の状況
- 営業への影響
- 写真・動画
- 緊急性
借主が勝手に修理してよい?
借主が設備の不具合を見つけたからといって、 高額な工事を勝手に発注し、 後から貸主へ全額請求できるとは限りません。
借主が自ら修繕できる場合
民法上、 借主が修繕の必要性を貸主へ通知したにもかかわらず、 貸主が相当期間内に必要な修繕をしない場合や、 急迫の事情がある場合には、 借主が自ら修繕できることがあります。
緊急修繕をどう定める?
漏水や停電など、 待っていられない故障が発生する場合があります。
そのため、 事業用賃貸借契約では 緊急時の対応方法も定めておくと安心です。
- 緊急連絡先
- 貸主へ連絡が取れない場合の対応
- 借主が応急措置できる範囲
- 業者選定方法
- 修繕費用の精算方法
- 事後報告の方法
漏水事故では原因箇所の特定が重要
店舗や事務所では、 漏水によって下階のテナントや共用部分へ 被害が広がることがあります。
↓
原因設備
↓
設備の所有者
↓
故障原因
↓
修繕負担
↓
損害賠償・保険
を分けて確認する必要があります。
修繕費と損害賠償は別問題
設備の修理費を誰が負担するかと、 故障によって生じた営業損失や他の物への損害を 誰が負担するかは、 別の問題です。
故障原因や契約上の免責・損害賠償条項などを確認する必要があります。
火災保険・施設賠償保険等も確認
事業用賃貸借では、 設備事故や漏水事故に備えて 保険加入を契約条件とする場合があります。
- 借家人賠償責任
- 施設賠償責任
- 火災・水濡れ
- 什器・設備
- 休業損害
実際の補償範囲は 保険契約の内容を確認する必要があります。
修繕と原状回復は違う
「修繕」と「原状回復」は、 似ているようで目的が異なります。
| 項目 | 修繕 | 原状回復 |
|---|---|---|
| 主な時期 | 契約期間中 | 契約終了・退去時 |
| 目的 | 使用できる状態を維持する | 契約上定めた状態へ戻す |
| 主な対象 | 故障・破損・設備不具合 | 内装・造作・設備・看板等 |
| 負担 | 原因・設備・契約条項により判断 | 契約書の原状回復条項により判断 |
借主設置設備は退去時の撤去まで確認
借主が自己負担で設備を設置した場合には、 契約中の修繕だけでなく、 契約終了時の撤去についても定めます。
借主が設置した 空調・配管・看板・内装・造作・什器等は、 貸主が残置を承諾したものを除き、 借主負担で撤去する
といった整理が考えられます。
貸主の従前設備まで撤去しないようにする
原状回復条項を広く書きすぎると、 借主が設置していない貸主設備まで 撤去対象に読めてしまうことがあります。
修繕工事をする場合のルール
借主が修繕工事を行う場合には、 工事そのものについてもルールを定めておくと安心です。
- 事前に貸主の承諾を得るか
- 工事業者を誰が決めるか
- 工事内容・図面を提出するか
- 共用部分を使用する場合のルール
- 工事時間
- 騒音・振動対策
- 事故発生時の責任
契約書に入れておきたい修繕条項
- 貸主が修繕する範囲
- 借主が修繕する範囲
- 借主設置設備の維持管理責任
- 貸主設備の維持管理責任
- 残置物の扱い
- 消耗品・小修繕の負担
- 修繕必要時の通知義務
- 緊急時の応急措置
- 借主が工事する場合の事前承諾
- 費用精算方法
- 借主の故意・過失による破損
- 退去時の原状回復との関係
修繕条項の考え方の例
↓
通常の維持管理を決める
↓
故障時の修繕負担を決める
↓
緊急時の対応を決める
↓
修繕工事の承諾方法を決める
↓
退去時の撤去・原状回復を決める
契約前に設備一覧を作っておく
修繕トラブルを防ぐには、 契約書だけでなく、 設備一覧表 を作る方法も有効です。
| 設備 | 所有・設置者 | 修繕負担 | 退去時 |
|---|---|---|---|
| 空調設備 | 貸主 | 契約条件による | 原則残置 |
| 借主増設エアコン | 借主 | 借主 | 撤去・原状回復 |
| 給排水本管 | 貸主側設備 | 契約条件による | 残置 |
| 借主増設配管 | 借主 | 借主 | 撤去の要否を契約で決定 |
| 看板 | 借主 | 借主 | 原則撤去 |
よくある修繕トラブル
① エアコン故障
貸主設備か残置物かが分からず、 修理費負担で争いになります。
② 漏水
建物本体の配管か、 借主増設配管かで責任関係が変わります。
③ 借主が勝手に修理
貸主へ連絡せず工事を行い、 後から費用請求して問題になります。
④ 残置物の故障
借主が貸主設備だと思っていたところ、 契約上は残置物だったというケースがあります。
⑤ 修繕と原状回復を混同
契約中の修理費と退去時の原状回復費を混同してしまいます。
⑥ 負担区分が抽象的
「設備修繕は借主負担」だけでは対象範囲が分からない場合があります。
契約締結前チェックリスト
- 貸主設備を確認した
- 借主設置設備を確認した
- 残置物を確認した
- 空調設備の修繕負担を決めた
- 給排水設備の負担区分を決めた
- 電気設備の負担区分を決めた
- 小修繕の負担を決めた
- 消耗品の負担を決めた
- 故障時の連絡方法を決めた
- 緊急時の対応を決めた
- 借主工事の承諾方法を決めた
- 借主設置設備の退去時撤去を決めた
- 原状回復条項との整合を確認した
行政書士に相談できること
事業用賃貸借契約では、 修繕義務を単独で考えるのではなく、 設備・原状回復・造作・中途解約・保証金等と 整合するように契約書を作ること が重要です。
- 事業用賃貸借契約書の作成
- 修繕義務条項の整理
- 貸主・借主の負担区分の文書化
- 設備一覧・特約事項の整理
- 借主設置設備に関する条項作成
- 残置物条項の整理
- 原状回復条項との整合確認
- 保証金・償却条項との整合確認
- 中途解約条項との整合確認
- 契約書全体の不足・矛盾の確認
また、実際の負担関係は、 契約書の内容・設備の所有関係・故障原因・具体的な経緯によって異なります。
まとめ
① 民法上、貸主には賃貸物を使用・収益するために必要な修繕を行う義務があるのが基本です。
② 借主の責任によって修繕が必要になった場合は、扱いが異なります。
③ 事業用賃貸借では、契約書で修繕負担を具体的に定めることが重要です。
④ 貸主設備・借主設備・残置物を明確に区分します。
⑤ 空調・給排水・電気設備などは、設備ごとに負担を決めると分かりやすくなります。
⑥ 借主が修繕を行う場合は、原則として事前に貸主へ連絡・確認することが重要です。
⑦ 修繕義務と原状回復義務は別の問題として整理します。
⑧ 借主設置設備については、契約中の修繕から退去時の撤去まで一貫して定めておくことが重要です。
↓
貸主設備・借主設備・残置物を区分
↓
修繕負担を明確化
↓
故障時の通知方法を決定
↓
緊急時の対応を決定
↓
原状回復との関係を明確化
契約締結時にここまで整理しておくことで、 設備故障時のトラブルを防ぎやすくなります。
お気軽にご相談ください
「借主設置設備の修繕条項を作りたい」
「残置物の扱いを契約書に明記したい」
「修繕と原状回復の負担区分を整理したい」
といった段階からご相談いただけます。
保証金・中途解約・再契約などについてご相談いただけます。