親から子・孫への生前贈与とは?
贈与契約書を作る理由と相続時の注意点を解説
「元気なうちに子どもへ財産を渡しておきたい」 「孫のために預金を贈与したい」 「将来の相続に備えて少しずつ財産を移したい」 と考える方は少なくありません。
このように、 本人が生きている間に財産を無償で渡すことを 一般に「生前贈与」と呼びます。
しかし、生前贈与は 単に親が子名義の口座へお金を振り込めば それで終わり、というものではありません。
贈与者本人の意思、受贈者の承諾、 贈与契約書、実際の財産移転、贈与税、 将来の相続との関係 まで考えて行うことが大切です。
今回は、親から子・孫への生前贈与について、 贈与契約書を作る理由と、 相続時に注意したいポイントをわかりやすく解説します。
特に親子・祖父母と孫の間では、
贈与契約書 + 実際の財産移転 + 受贈者による管理 + 税務上の確認 + 将来の相続への影響
を一体として考えることが重要です。
生前贈与とは?
生前贈与とは、 財産を持っている人が生きている間に、 その財産を他の人へ無償で与えることです。
法律上は「贈与」であり、 贈与者が財産を無償で与える意思を示し、 受贈者がこれを受諾することで 贈与契約が成立します。
贈与者
財産を与える人です。
親・祖父母などが典型例です。
受贈者
財産を受け取る人です。
子・孫などが典型例です。
相続と生前贈与は何が違う?
相続と生前贈与の大きな違いは、 財産が移転する時期です。
| 項目 | 生前贈与 | 相続 |
|---|---|---|
| 財産が移る時期 | 原則として本人の生前 | 本人の死亡により相続開始 |
| 基本的な仕組み | 贈与者と受贈者の合意 | 法律・遺言・遺産分割等による承継 |
| 主な税金 | 贈与税等 | 相続税等 |
| 本人の意思 | 生前に実行できる | 遺言等で死亡後の承継先を指定できる |
なぜ親から子・孫へ生前贈与するの?
- 子どもの住宅購入を援助したい
- 子どもの生活を援助したい
- 孫の教育等を支援したい
- 元気なうちに財産を渡したい
- 誰に財産を渡したか明確にしたい
- 将来の相続に備えたい
- 家族間の財産承継を計画的に行いたい
生前贈与には贈与契約書が必要?
贈与契約は、 必ず契約書を作らなければ成立しない契約ではありません。
口頭でも、 贈与者と受贈者の意思が合致すれば 成立する可能性があります。
親子間では 「家族だから分かっている」 という理由で書類を残さないケースがあります。
ところが相続が発生すると、 他の相続人から 「本当に贈与だったのか」 「親が預けただけではないか」 と疑問が出ることがあります。
贈与契約書を作る5つの理由
① 贈与意思を残す
親が自分の意思で財産を贈与したことを記録できます。
② 受贈者の承諾を残す
子や孫が贈与を受けることに合意したことを明確にできます。
③ 財産を特定する
いつ、いくら、何を贈与したのかを明確にできます。
④ 相続時の説明資料になる
後に相続が発生した際、贈与の経緯を確認しやすくなります。
⑤ 税務上の資料の一つになる
贈与契約の存在や内容を示す資料の一つになります。
現金・預貯金を贈与する場合
親から子・孫への生前贈与で 比較的多いのが、 現金・預貯金の贈与です。
例えば、 親から子へ100万円を贈与するのであれば、 贈与契約書を作成したうえで、 親名義の口座から子名義の口座へ振り込む方法が考えられます。
贈与契約書と振込記録をセットで残す
「誰が、誰に、いくら贈与したか」
+
銀行振込記録
「実際に財産が移転したこと」
+
受贈者による管理
「贈与後は受贈者自身が財産を管理する」
子名義・孫名義の口座に入金すれば贈与になる?
親や祖父母が 子・孫名義の預金口座を作り、 そこへ毎年お金を入れている場合があります。
しかし、 口座の名義だけを子や孫にすれば 当然に贈与になるとは限りません。
- 通帳を誰が保管していたか
- 印鑑や暗証番号を誰が管理していたか
- 子や孫が口座の存在を知っていたか
- 贈与を受けたことを認識していたか
- 贈与を受ける意思があったか
- 子や孫が自由に使用・管理できたか
名義預金とは?
形式上は子や孫の名義でも、 実際には親・祖父母が資金を出し、 その後も管理している預金は、 相続時に「名義預金」として 問題になることがあります。
誰が資金を出したのか、 誰が管理していたのか、 贈与の合意があったのかなど、 実際の状況から判断されます。
毎年110万円を贈与すれば大丈夫?
暦年課税では、 一人の受贈者がその年の1月1日から12月31日までに 受けた贈与について、 原則として年間110万円の基礎控除があります。
誰からいくら受けたかだけでなく、 その年に受けた贈与全体や、 利用している課税制度等を確認する必要があります。
また、税制は改正されることがありますので、 実際に贈与する際には 最新の制度を確認することが重要です。
毎年贈与する場合の贈与契約書
毎年、親から子へ一定額を贈与する場合には、 その都度贈与の意思を確認し、 贈与契約書を作成する方法があります。
長期間にわたる贈与を最初から約束する場合には、 その契約内容や税務上の取扱いについて 十分な確認が必要です。
贈与税には2つの仕組みがある
個人間の贈与では、 主に暦年課税と 相続時精算課税という制度があります。
| 項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 暦年ごとに贈与税を計算 | 一定の贈与を相続時の課税関係と結び付けて計算する制度 |
| 基礎控除 | 原則 年110万円 | 現行制度では年110万円の基礎控除あり |
| 特徴 | 一般的な贈与で広く利用される | 選択後の取扱いや相続時の計算に注意が必要 |
| 注意点 | 相続開始前の一定期間の贈与について相続税との関係を確認 | 選択要件・届出・相続時の取扱い等を確認 |
具体的な税額計算や制度選択については、 税理士等へ相談してください。
相続時精算課税とは?
相続時精算課税は、 一定の要件を満たす贈与者と受贈者の間で 選択できる贈与税の制度です。
制度改正により、 現在は相続時精算課税にも 年110万円の基礎控除が設けられています。
一度選択した後の取扱いも含め、 制度全体を理解したうえで利用することが重要です。
生前贈与をすれば相続税対策になる?
生前贈与によって 本人の財産が減れば、 将来の相続財産が減少することがあります。
しかし、 「贈与すれば必ず相続税が安くなる」 とは限りません。
2024年以降の税制改正により、 暦年課税による生前贈与の 相続税への加算対象期間は段階的に延長され、 最終的には7年間となる仕組みです。
実際にどの贈与が加算対象になるかは、 相続開始日や贈与時期などによって異なるため、 個別に確認する必要があります。
「7年以内の贈与は全部戻る」と考えない
生前贈与加算については、 誰が贈与を受けたのか、 どの制度を利用したのか、 相続開始日がいつなのかなどによって 取扱いが変わります。
相続税上の加算対象については、 最新の税制と個別事情を確認してください。
生前贈与と「特別受益」
税金とは別に、 民法上の相続で問題になることがあるのが 特別受益です。
相続人の一部が被相続人から 婚姻・養子縁組のため、または生計の資本として 贈与を受けていた場合などには、 遺産分割において特別受益として 考慮されることがあります。
特別受益の持戻し免除とは?
贈与した本人が、 その贈与について 遺産分割時に特別受益として持ち戻さなくてもよい という意思を示すことがあります。
これを一般に 「持戻し免除の意思表示」 といいます。
生前贈与と遺留分
一定の相続人には、 相続について最低限保障される 遺留分があります。
一人の子へ多額の財産を生前贈与した場合などには、 将来、他の相続人の遺留分との関係が 問題になる可能性があります。
遺留分の計算では、 一定の生前贈与が基礎財産に含まれることがあります。
特に相続人に対する贈与については、 贈与の時期や目的などにより 取扱いが異なるため注意が必要です。
子には贈与したが孫には贈与していない場合
生前贈与では、 「誰に渡すか」も重要です。
子と孫では、 将来の相続における立場が同じとは限りません。
不動産を子へ生前贈与する場合
親名義の自宅や土地を 子へ生前贈与することもできます。
ただし、 現金の贈与に比べて 確認事項が多くなります。
- 不動産の登記名義
- 土地・建物の評価
- 共有持分
- 抵当権等の有無
- 贈与契約書
- 所有権移転登記
- 贈与税
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 将来の相続との関係
贈与と相続では、 税金や登記費用等の取扱いが異なります。
不動産の贈与契約書だけでは名義は変わらない
親子で不動産贈与契約書を作成しても、 登記簿上の所有者が 自動的に子へ変更されるわけではありません。
不動産登記の申請代理については 司法書士の専門分野となります。
親が高齢の場合は判断能力にも注意
親が高齢になってから 多額の生前贈与をする場合には、 本人の判断能力が重要になります。
そのため、 「認知症になってから考えればよい」 ではなく、 本人が元気なうちから 財産承継について考えることが重要です。
親の老後資金を残すことも重要
子や孫へ財産を渡すことだけを考え、 親自身の財産を減らしすぎてしまうのは 注意が必要です。
- 日常生活費
- 医療費
- 介護費
- 高齢者住宅・老人ホーム等の費用
- 自宅の修繕費
- 入院費
- 葬儀・納骨等の費用
認知症になる前に生前贈与だけ考えればよい?
高齢期の財産対策は、 生前贈与だけで解決するものではありません。
生前贈与
元気なうちに財産を子・孫等へ移します。
遺言
亡くなった後に財産を誰へ承継させるか決めます。
財産管理等委任契約
必要に応じて、元気な時からの財産管理等に備えます。
任意後見契約
将来、判断能力が低下した場合に備えます。
さらに、 亡くなった後の葬儀・納骨・各種解約等については、 死後事務委任契約を検討する場合もあります。
生前贈与と遺言を組み合わせる
財産の一部は生前に贈与し、 残った財産については遺言書で 承継先を決める方法もあります。
→ 子・孫へ生前贈与
自分の老後に必要な財産
→ 自分で保有
死亡時に残っている財産
→ 遺言書で承継先を指定
このように、 「今渡す財産」と 「自分のために残す財産」と 「死亡後に渡す財産」 を分けて考えることができます。
兄弟姉妹間の公平性にも注意
例えば、 長男だけに1,000万円を生前贈与し、 次男には何も贈与しなかった場合、 親としては理由があったとしても、 相続発生後に兄弟間で不満が生じることがあります。
生前贈与でよくある失敗
契約書を作らない
後から贈与だったことを説明しにくくなる場合があります。
名義だけ変える
実際の管理者が親のままで、名義預金等の問題になることがあります。
税金を確認しない
思わぬ贈与税等が発生する可能性があります。
相続への影響を考えない
特別受益・遺留分等が問題になる場合があります。
老後資金まで贈与する
介護・施設入居等に必要な資金が不足する可能性があります。
判断能力が低下してから行う
贈与契約そのものの有効性が問題になることがあります。
生前贈与をするときの基本的な流れ
預貯金・不動産・株式・保険等を整理します。
生活費・医療・介護・高齢者住宅等の費用を考えます。
子・孫等への贈与内容を整理します。
暦年課税・相続時精算課税等を確認します。
特別受益・遺留分・遺言との関係を検討します。
贈与者・受贈者・財産・日付・方法等を明記します。
金銭なら銀行振込等、記録の残る方法を検討します。
名義だけでなく実際の管理状況も重要です。
不動産登記や贈与税申告等の要否を確認します。
贈与契約書・振込記録・申告関係資料等を保管します。
行政書士に相談できること
生前贈与では、 単に財産を移すだけではなく、 その内容を書面に残しておくことが重要です。
- 生前贈与の内容整理
- 贈与契約書の作成
- 金銭贈与契約書の作成
- 不動産贈与契約書の作成
- 財産関係資料の整理
- 相続人関係の整理
- 遺言書作成の支援
- 将来の相続を見据えた書類の整理
- 任意後見・財産管理等に関する契約書作成支援
- 必要に応じた他士業との連携
不動産の所有権移転登記の申請代理は 司法書士の専門分野です。
相続人間ですでに争いが生じている場合の 交渉・代理・訴訟等については 弁護士へ相談する必要があります。
親から子・孫への生前贈与チェックリスト
- 現在の財産総額を把握した
- 老後に必要な生活資金を考えた
- 介護・施設入居費用も考えた
- 誰に贈与するか決めた
- 何を贈与するか決めた
- 贈与金額を決めた
- 贈与者本人の意思を確認した
- 受贈者が贈与を承諾している
- 贈与契約書を作成した
- 銀行振込等の記録を残せる
- 贈与後は受贈者が財産を管理する
- 名義預金にならないよう確認した
- 贈与税を確認した
- 暦年課税・相続時精算課税を確認した
- 相続税への加算関係を確認した
- 特別受益との関係を確認した
- 遺留分との関係を確認した
- 他の子どもとのバランスを考えた
- 遺言書との整合性を確認した
- 不動産の場合は登記・税金を確認した
まとめ
① 生前贈与とは、本人が生きている間に財産を無償で相手へ与えることです。
② 親子・祖父母と孫の間であっても、贈与者と受贈者双方の意思が重要です。
③ 後日のトラブルを防ぐため、贈与契約書を作成して贈与内容を明確にしておくことが有効です。
④ 金銭贈与では、契約書と銀行振込等の記録を残しておくと確認しやすくなります。
⑤ 子・孫名義の口座に入金しただけでは、実質的な贈与と認められるか問題になる場合があります。
⑥ 生前贈与では、暦年課税・相続時精算課税など贈与税の制度を確認する必要があります。
⑦ 生前贈与は、相続税だけでなく特別受益・遺留分等にも関係する場合があります。
⑧ 不動産を贈与する場合は、贈与契約書だけでなく登記・税金も確認します。
⑨ 親が高齢の場合には、判断能力が十分なうちに財産承継について考えることが重要です。
⑩ 生前贈与だけでなく、遺言・任意後見・財産管理等も含めて総合的に準備することが大切です。
+
子・孫への贈与意思を明確にする
+
贈与契約書を残す
+
実際に財産を移転する
+
贈与税・相続税を確認する
+
将来の遺産分割・遺留分も考える
このように、 「贈与」と「将来の相続」を一緒に考える ことが重要です。
お気軽にご相談ください
「孫への贈与について契約書を残したい」
「親子間の贈与契約書を作成したい」
「生前贈与と遺言をどのように組み合わせるか整理したい」
といった段階からご相談いただけます。
相続を見据えた財産関係書類の整理についてご相談いただけます。